甘えたいお年頃。
「深鶴ちゃーん?」
「……」
「おーい起きてるう? 目開けたまま寝る人みたいになってるよー?」
「……あ、ごめん、ぼーっとしてた……」
いつの間にか1時間目が終わっていた。
とは言え、所々できちんと黒板の内容はノートに書いている。
あとでもう一度復習しておかないと確実に分からなくなるだろう。
ぼーっとしていた原因は朝の小説だ。
展開があまりにもショッキングだったせいで、自分が思っていた以上にダメージを受けていたらしい。
よくよく考えたら周りに散々迷惑かけてやっと告白したのに、付き合ってからやっぱり私はあなたと釣り合わないとか言って自殺(するか分からないけど)するのってかなり自分勝手じゃないだろうか。
「次体育だよお。確かあ、バスケかバレーの選択だってえ」
「うわどっちもキツいじゃん」
「まあ運動できるだけましじゃない?」
男子がいなくなった教室でジャージに着替えている間、志穂とその周りの女友達はずっと話していた。
自分の体力的には、絶対にバスケは避けたい。
けれど、おそらくバレーは人数が多くなるだろう。
先生に無理矢理入れられる可能性だってある。
着替え終わり、一斉に体育館に移動し始めると、誰かに肩を叩かれた。
「深鶴ちゃーん、選択どうするう?」
「私? うーん……」
「私さあ、出来ればバレーの方行きたいんだけどー。深鶴ちゃんってバレー得意だっけえ?」
「得意って言うか……バスケよりは出来るかな」
マジで、やったね、と志穂は何故か喜ぶ。
どうやらバレーのグループに人が足りなかったから、私を誘いたかったらしい。
それで決まるのなら、と私は了承した。
…………………………
先生が高く笛を鳴らす。
一斉にボールを打つ音が体育館中に響き渡る。
器用に皆がパスの練習をしている中、私と志穂はただただボールをお互いに投げ合っていた。
「ねえ深鶴ちゃーんぜんっぜん続かないよお」
「そっちだって打ち返せてないじゃん」
正確にはただ投げ合っていたのではない。
投げられたボールをパス出来ないだけだ。
ついに志穂は諦めてボールを持ったまま雑談し始めた。
「あーあ……ホント球技苦手ー。なんでボールだけで昔の人はこんなに遊び考えられたんだろう」
「気持ちは分からんでもないけど、今はほら、授業だし。先生に見つかるよ」
「えー見てないっしょ。あっちに二人ともついてるしい」
志穂が指差すと同時に、バスケ側から高らかな笛の音が聞こえる。
すでにバスケではチームを作ってミニ試合をしていた。
出ているチームは私のクラスの男子ともう一つのクラスの男子だ。
「あっ。あれ霜月くんじゃない?」
「ほんとだ」
笛が鳴る。
器用にボールをパスし、少しずつ私のクラスの男子チームが優勢になっていく。
バレーのパス練習をしていたはずの女子がバスケの試合を見始めた。
ゴール付近。
パスを受け取ったのは尚人だ。
周りを3人に囲まれている。