甘えたいお年頃。
次の瞬間。
尚人がボールを投げる。
数人の手がボールの進路を塞ぐ。
誰かが体勢を崩し、男子の塊は尚人を巻き込んで床に倒れた。
バタバタと派手な音がする。
ボールは我関せずと言わんばかりにまっすぐに飛び、あっさりとゴールに入った。
「うわ……」
「いったそー……」
あわてて先生が倒れたところに走っていく。
それを見て周りがざわついた。
「霜月くんせっかくゴール決めたのにねえー」
「いやそこじゃない。確かにそうだけれども。それより大丈夫かな……下敷きになってたけど……」
「えー何い? 深鶴ちゃん心配してんのー?」
「心配して何が悪い」
そうこうしているうちに、男子の塊は徐々にほどけていく。
どうやら特に大きなけがはなかったようだ。
尚人も平気そうな顔をしている。
……いつもの無表情だが。
試合は普通に再開された。
そして。
「こら! バレーの方は何やってる!」
「うわヤバいバレた」
「……はは……」
バスケの方ばかりみていた先生が私達に気がついた。
結果、バレー側は一度も試合することなく終わったのだった。
……………………
昼休み、いつの間にか私の机の周りに三人ほど人が集まっていた。
前の席で話しているあたり、志穂の友人達だろう。
私が席に近づいてもほとんど気がつかない。
そっと弁当を持って、すぐにその場を離れた。
食堂で食べようと移動したとき、ふと教室の廊下で誰かとすれ違った。
パタパタと走っていくその姿はどこかで見たような……。
「し、霜月くん!」
「……えっ」
一瞬廊下がざわついた。
振り返ってみると、ぼけーっと突っ立っている尚人と向かい合うようにして立っているあの女ーー里菜の姿がある。
里菜は相変わらず恋する乙女を具現化したような態度を見せているが、尚人はただいつもの無表情でほぼ睨みつけるように里菜を見ていた。
別のクラスになってもまだ諦めてなかったのか。
「きょ、今日約束してたよね! 私がお弁当作ってくるって!」
「……ん」
「せっかくだから、その……」
里菜は尚人に何かを耳打ちすると、尚人は一瞬目を開く。
数秒ほどで元の表情に戻ると、軽く頷いた。
里菜は楽しげに尚人の手を引いて歩き始める。
ただ連れて行かれるがままに、尚人は私の視界から外れていった。
一連の行動を見た人達は「あの二人出来てる?」とヒソヒソと話し始める。
私はなんとも言えない気持ちで二人を見た後、渋々食堂の方へと歩みを進めた。