甘えたいお年頃。
食堂に着くと同時に、「みつるちゃーんっ」と名前を呼ぶ声がした。
振り返ると、友達とご飯を食べていたはずの志穂が財布を持っている手を私に振っている。
「教室で友達と話してなかった?」
「あはは、ご飯まだ終わってないけど今皆でお菓子買うとこなんだあ。もう購買の方で選んでるんだけどね、深鶴ちゃんがいたからついー」
「不健康だなあ……私今から弁当なんだけど」
「そっかあ、じゃあ……ちょっと深鶴ちゃんと話したいことがあるからあ、友達に先に行っててって言っとくよお」
話したいこと。
なんとなくいやな予感をさせる言葉だ。
数行ほどいなくなったと思うと、志穂はすぐに帰ってきてOKの合図をする。
食堂へと入ると、もう昼休みに半分が終わりそうだからか、あまり混雑していなかった。
適当に座って弁当を開く。
志穂は向かい合うように座り、さっき買ってきたプチドーナツの袋を開けた。
「深鶴ちゃんさあ」
「うん」
「お昼の里菜のやりとり見たあ? あれなんかチョー感じ悪くない?」
うっかりご飯を噴き出す。
思い切り咽せてしまった。
突然話を切り出してきた志穂は「ちょっとだいじょーぶ?」と言ってポケットティッシュを寄越してくれた。
「な、なんでいきなり……ゴホッ」
「だってさあ、あれ完全に「霜月くんは私のものです」アピールじゃん? めっちゃムカつかない?」
「知らんがな……ふんっ」
「ちょっとお、鼻に入った米出さないでよ汚い」
ティッシュで拭き取りながら、あの時の事を思い出す。
アピールだ、と言われればそれまでかもしれないが、実際特に里菜が周りを気にしている様子はなかったように思う。
ただの恋する乙女じゃん、と言おうとしたとき。
「しかもさあ、深鶴ちゃん気づいてないかもしれないけどお……里菜、深鶴ちゃんとすれ違う度に睨んでるよ?」
「……は!? なんで!?」
「こっちのセリフだよお……深鶴ちゃん去年同じクラスだったんでしょ? なんかやらかしたんじゃないの?」
「いや……まあなんていうかこじれたっちゃあこじれたけど……あれは完全に私が悪いから睨まれても仕方ない、かな……」
歯切れの悪い返答をすると、志穂の顔がだんだん深刻そうな表情になる。
ドーナツを一つ食べてから、また志穂は話し出した。
「私中学校一緒だったから里菜の事は結構知ってるんだけどお。あいつ自分の邪魔されたらすぐキレるんだよ」
「ああ……」
「深鶴ちゃんだけじゃなくてえ、いっつも絡んでたツッキーの方も嫌われてんじゃん? 明らかに恋愛方向でなんかあったでしょ」
「ぐっ」
何故一度もそんな話をしたことがないのに分かるのだろう。
けれども、明らかに志穂は事情を知っている。
食べ終えた弁当箱を閉じ、志穂の方を見ると、ひどく心配そうな顔をしていた。
「……あのさ、別にそんなに心配しなくても大丈夫だよ。クラスも分かれてるからそんなに関わることもないだろうし」
私がそう言うと、志穂は「ふうん」と不満げな声を出してこっちを見つめた。
と同時に、午後の授業の予鈴が鳴る。
私と志穂はあわてて教室へと戻った。