甘えたいお年頃。
猛ダッシュで最寄り駅まで走る。
とは言え普通に歩いて15分の道。駅に着いたとき、さり気なく時計を見ると発車時刻まであと三分のところだった。
なんとか乗車する。
少し汗をかいたので、スカジャンのポケットからハンカチを出して拭いた。
そこから深月が言った通りに乗り換え、到着してから30分ほど歩く。
いつもの白いスニーカーとは違い、踵が低いヒールになったパンプスを履く深月は歩くのが大変そうだった。
「……あ、着いたよ!」
深月がそう言って指を指した方向に、あきらかに普通の一軒家とは違う家……と言うより、真っ白い屋敷があった。
「これ……家?」
「うん、里菜ん家だよ。まあ深鶴は初めてだから仕方ないか」
「あの人金持ちだったんだ」
「親がね」
門(?)の隣に小さく備え付けられているインターホンを押して、少し待つ。
すると、何度か聞いたことのある声が聞こえてきた。
『いらっしゃーい! 深月と深鶴ちゃんだね! 今開いてるから中に入っていいよ!』
「はいはーい!」
元気よく答えた深月はそのままどんどん中へ入っていく。
私は一度インターホンの方にお辞儀をしてから深月に続いた。
その時、ちらっと見えた。
「……あ」
筆箱を買ったあの店で、私の後ろにいた、男子生徒。
顔はよく見えないが、どことなく立ち姿はその男と一緒だ。
彼もまた、誕生日会の主役へプレゼントを買っていたのだろうか。
「深鶴ー? 早くいこうよー!」
「あ、うん、ごめん今行く」
深月の方を向く直前。
一瞬だけ、あの視線と同じものを感じた。
……彼の視線? まさか。
気のせいだ、となんとなくそう思い込んで、今度こそ深月の方へと歩いていった。