甘えたいお年頃。

深月と共に少し複雑な廊下を進むと、ちょうど家の真ん中に広い庭があるのが見えた。
深月はそこへの入り口を知っているようで、そっと透明なガラスに触れると、ゆっくりとそれは開く。


「おーい!」
「あ、深月ちゃん!」


庭には大体10人程度、教室で見慣れたメンツが揃っていた。
中庭にあるテーブルにはいくつかの料理が並べられており、皆は思い思いにそれらを口にしながら話していた。
どうやら立食パーティのようだ。

深月はあっという間に他の友人達の輪に混ざり、楽しそうに話し始める。
私はさすがに話しかけることも出来ず、そっとテーブルの料理を眺めていた。サンドイッチやピザなどつまみやすいものが多くある中、何故かその中に焼きそばが混ざっている。

変なメニューだ、としばらく見つめていると、突然誰かに肩を叩かれた。


「君、深鶴ちゃんだよね?」
「はい、そうですけど……」
「うわーほんと、深月ちゃんにそっくり! なのになんかすんげー雰囲気違くない!?」
「まあ……ちょっとは」


話しかけてきたのはそもそも会ったこともないようなチャラついた格好の男子だ。
深月の事を知っているようで、何故か私と深月を比べたがっているように見える。
好奇心だけで聞いてるのだろうけれど、正直胸糞悪い。


「ひょーー! めっちゃクールじゃん! ねえ深鶴ちゃんの事もっと教えてくんない?」
「はあ……それはいいですけど……」
「どうせだしみんなのところにも行かね? ここにお前の知り合いってそんないないだろ?」


いや、お前誰やねん。マジで誰やねん。なんでそんなグイグイ来るん?

双子だから名前くらいは皆に知られてるんだろうけど私はこいつの名前もクラスも知らない。
私の不快そうな表情をよそに、男はそっと私の腕を掴んでみんなの方に引っ張ろうとする。

その時だった。


パシ、と乾いた音がする。
男は突然の事で驚いた顔をーー後ろに向けた。



「……止めろよ。嫌がってんじゃん、そいつ」



そこにいたのは、あの店にいた男だった。
どうやら私に回していた腕を叩いて落としたらしい。
一瞬何が起こったのか分からなかったが、


「あ、ああ……って、尚人(ひさと)お前来たのかよ!?」
「……仕方ねえだろ。……部活も、そんなに忙しくもねえし。招待されたら顔出すくらいはしねえと」


……もしかして、助けられた?


「……んで、尊(たける)。お前はあの子に何してた。セクハラか?」
「んなっ、ちげえよ! なんかぽつーんてしてるから話しかけてやるべきかなって……」
「……ぼっちにお節介はいらねえだろ。行くぞ」
「おっま……言い方ってもんがあるだろうが!」


表情を一切変えず、尚人と呼ばれた方の男はチャラ男をみんなの方に引きずっていく。
またぽつんと一人取り残された……時。

一瞬、尚人と目があった。

結構な距離があったあの時とは違う。
本当に日本人かと疑いたくなるくらい、薄いグレーの瞳がこちらを見た。
その視線に一瞬、緊張が走る。

はっと我に返ると、すでに二人は皆の輪に入り込んでいた。
主役の里菜もそちらの方へ駆けていく。


「深鶴! 早く早く!」
「……あ、ごめんごめん」


呆けていた私を深月が呼んだ。
私は慌てて、光が射し込む中庭の真ん中へと走った。
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