戸惑う暇もないくらい
甘い時間とシビアな現実
地元の短大を卒業し、百貨店で勤務して9年目。
失恋の傷はもう十分癒えたというのに出会いは無い。
女の崖っぷちなんて言われたりする29歳の誕生日を迎え、結婚についてそろそろ本気で考えた方が良いかな、なんて思っていたこの頃。
肌着売場には目立ちすぎる長身に整った顔。
明らかに他の女性客の注目を集めていた彼は連れで来ていた女性に促されて気まずそうに肌着売場に入ってくる。
連れの女性が下着選びに夢中になり、どんどん奥へ進んでいくにつれてその綺麗な顔に焦りが浮かんでいた。
それ以上進めず、取り残されてしまった彼に声をかけたのが始まりだった。
「良かったら、あちらで待たれませんか?男性お一人だと居づらいですよね」
それは仕事の一環であり、接客業に従事する者なら当たり前のことだったと今でも思っているのだけど。
私が声をかけると心からほっとしたように眩しい笑顔が向けられた。
顔の回りに光と花の幻覚が見えるほどの輝きだった。
「ありがとうございますっ。あのっお姉さんの連絡先、教えてくれませんか!」
思いも寄らぬ言葉に一瞬、二人の間を静寂が包み込む。
「…そういったことは業務上致しかねますので」
真顔になりそうなのをこらえて仕事用スマイルでかわしたはずだった。
まさかその彼と一緒に暮らすようになるなんて、その時は夢にも思わなかったのだ。
失恋の傷はもう十分癒えたというのに出会いは無い。
女の崖っぷちなんて言われたりする29歳の誕生日を迎え、結婚についてそろそろ本気で考えた方が良いかな、なんて思っていたこの頃。
肌着売場には目立ちすぎる長身に整った顔。
明らかに他の女性客の注目を集めていた彼は連れで来ていた女性に促されて気まずそうに肌着売場に入ってくる。
連れの女性が下着選びに夢中になり、どんどん奥へ進んでいくにつれてその綺麗な顔に焦りが浮かんでいた。
それ以上進めず、取り残されてしまった彼に声をかけたのが始まりだった。
「良かったら、あちらで待たれませんか?男性お一人だと居づらいですよね」
それは仕事の一環であり、接客業に従事する者なら当たり前のことだったと今でも思っているのだけど。
私が声をかけると心からほっとしたように眩しい笑顔が向けられた。
顔の回りに光と花の幻覚が見えるほどの輝きだった。
「ありがとうございますっ。あのっお姉さんの連絡先、教えてくれませんか!」
思いも寄らぬ言葉に一瞬、二人の間を静寂が包み込む。
「…そういったことは業務上致しかねますので」
真顔になりそうなのをこらえて仕事用スマイルでかわしたはずだった。
まさかその彼と一緒に暮らすようになるなんて、その時は夢にも思わなかったのだ。
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