戸惑う暇もないくらい
藤島さんと別れて駅の中でスマートフォンを確認すると那智からの連絡はなかった。
時刻は17時前。30分には家に着ける時間だった。
予定通り、30分を少し回った時に家に着いた。
時間を見たときにもう一度連絡を確認するも新着はなかった。
まだバイトが終わってないのだろうか。
那智は仕事終わりには必ず連絡をくれる。
カチャリと鍵を開けて家の中に入った。
「ただいま…あれ」
ドアを開けた瞬間、リビングに電気が付いているのが見える。
やっぱり那智が帰っているのかとリビングの扉を開いた。
「那智…?」
「あ、お帰り」
キッチン側を見るといつものようにエプロンを着けた那智の背中が見えた。
声をかけると半身だけ振り返って返事をし、また料理の準備に取り掛かっている。
おかしい。
連絡もなければ出迎えもない。
顔を見せても必要最低限だけの返事だけなんて。
普段と比べると那智の行動は不自然極まりないが、その声音も特に不機嫌な感じでもなく、落ち込んでいる風でもない。
どう声をかけていいか分からず、立ち尽くすように那智の背中を見ていた。
とりあえず鞄を置いてジャケットをハンガーにかける。
いつもならその日にあった出来事なんかを料理しながらでも機嫌よく話すはずなのに、その間も那智は黙々と作業していてその静けさが怖かった。
「那智、私も手伝うよ」
平静を装って声をかける。
振り返った那智の表情はどうにも読めないもので、一瞬目が合ってからふいと逸らされた。
「いいよ、もうすぐできるから」
「でも、何か手伝うけど…」
「いいから」
「…っ」
珍しく強い口調で言われ、言葉に詰まる。
やっぱり何か怒っているような気もする。
ただ全く原因が分からず、どうしていいか分からない。
そのまま机の前まで移動して大人しく座り込んだ。
8月に付き合い始めてから7ヶ月。
こんな那智を見るのは初めてだった。
ケンカというケンカもしたことがない。
いつも怒るのは私の方で、那智が笑って謝るから深刻な言い争いどころか那智が怒ることすらほとんどなかった。
二人だけの空間に沈黙が重い。
原因が分からないのが余計に不安を助長する。
その空気に耐えかねてテレビを付けるもその内容が頭に入ってくることはなかった。
しばらくして那智がパスタを運んでくる。
見たところ魚介のオイルパスタのようだ。
入れ替わりに立ち上がって二人分のカトラリーを用意した。
ただ無意味に流れるテレビの音とパスタを食べる音。
隣に居るのに会話のない嫌な時間。
たまにちらりと那智の方を向いても那智は全く意に介さないように食事を続けた。
せっかく、異動の不安がなくなったのに、どうしてこうなったの。
気を緩めば涙が零れそうで食事に集中した。
おいしいはずの那智のご飯の味が、初めて分からなかった。
時刻は17時前。30分には家に着ける時間だった。
予定通り、30分を少し回った時に家に着いた。
時間を見たときにもう一度連絡を確認するも新着はなかった。
まだバイトが終わってないのだろうか。
那智は仕事終わりには必ず連絡をくれる。
カチャリと鍵を開けて家の中に入った。
「ただいま…あれ」
ドアを開けた瞬間、リビングに電気が付いているのが見える。
やっぱり那智が帰っているのかとリビングの扉を開いた。
「那智…?」
「あ、お帰り」
キッチン側を見るといつものようにエプロンを着けた那智の背中が見えた。
声をかけると半身だけ振り返って返事をし、また料理の準備に取り掛かっている。
おかしい。
連絡もなければ出迎えもない。
顔を見せても必要最低限だけの返事だけなんて。
普段と比べると那智の行動は不自然極まりないが、その声音も特に不機嫌な感じでもなく、落ち込んでいる風でもない。
どう声をかけていいか分からず、立ち尽くすように那智の背中を見ていた。
とりあえず鞄を置いてジャケットをハンガーにかける。
いつもならその日にあった出来事なんかを料理しながらでも機嫌よく話すはずなのに、その間も那智は黙々と作業していてその静けさが怖かった。
「那智、私も手伝うよ」
平静を装って声をかける。
振り返った那智の表情はどうにも読めないもので、一瞬目が合ってからふいと逸らされた。
「いいよ、もうすぐできるから」
「でも、何か手伝うけど…」
「いいから」
「…っ」
珍しく強い口調で言われ、言葉に詰まる。
やっぱり何か怒っているような気もする。
ただ全く原因が分からず、どうしていいか分からない。
そのまま机の前まで移動して大人しく座り込んだ。
8月に付き合い始めてから7ヶ月。
こんな那智を見るのは初めてだった。
ケンカというケンカもしたことがない。
いつも怒るのは私の方で、那智が笑って謝るから深刻な言い争いどころか那智が怒ることすらほとんどなかった。
二人だけの空間に沈黙が重い。
原因が分からないのが余計に不安を助長する。
その空気に耐えかねてテレビを付けるもその内容が頭に入ってくることはなかった。
しばらくして那智がパスタを運んでくる。
見たところ魚介のオイルパスタのようだ。
入れ替わりに立ち上がって二人分のカトラリーを用意した。
ただ無意味に流れるテレビの音とパスタを食べる音。
隣に居るのに会話のない嫌な時間。
たまにちらりと那智の方を向いても那智は全く意に介さないように食事を続けた。
せっかく、異動の不安がなくなったのに、どうしてこうなったの。
気を緩めば涙が零れそうで食事に集中した。
おいしいはずの那智のご飯の味が、初めて分からなかった。