戸惑う暇もないくらい
変化とすれ違い
毎年テレビでは大手企業の入社式が取り上げられる季節。
浮かれ気分から購買意欲を誘おうと何かと春をテーマにしたイベントが各地で展開され、それはもちろんこの高菱屋も例外ではない。
肌着売場の通路に面した入り口、中央に二体のマネキン。
いわゆるVPと呼ばれる売場で最も目立つコーナー。
先日入荷したばかりの「ジョワ・フルール」の新作を二体ともに着せ、マネキンの間の棚にはマネキン着用のカラー違いの商品と展開用の小物を並べる。
「こんな感じかな」
4月の第1週というタイミングで「ジョワ・フルール」にVP展開が与えられた。
日本初上陸から1周年記念のイベントとして一定額以上購入のお客様にノベルティをプレゼントする企画もスタートしている。
今までで一番力を入れた展開であるだけに気合いも入る。
細かい修正を加えると開店15分前の放送が流れた。
朝礼用の連絡事項を確認しようと事務所に戻る。
そのドアを開けると、黒いスーツが目の前に現れた。
「藤島さん」
「ああ、おはよう。今日からよろしく頼む」
「はい、よろしくお願いいたします。藤島マネージャー」
4月から婦人肌着売場のマネージャーとなった藤島さん。
引き継ぎの為に数日前から事務所に出入りしており、本格的な着任となるのは今日からだ。
社内人気が高いのは以前から知っていたけれど。
「…見てよ広瀬。婦人服の販売員の目がハート」
「うん、さすがだね…」
婦人服・婦人肌着合同の朝礼で、異動の時期は恒例のあいさつに藤島さんが前に出た瞬間、9割以上女性が占める販売員がざわつくのが分かった。
若菜の比喩は大袈裟ではない。
長身に長い手足、整ったルックスに加え、仕事の出来る男が纏う雰囲気というのは確かにある。
そんなところに惹かれて昔好きになったのは事実だ。恋愛感情の中に憧れの部分がかなりあった。
仕事ができるという面ではもちろん今も尊敬する憧れの上司。
でも、今はそれが恋愛感情に結び付くことはない。
そんな風に思うほど、私の中の那智が占める割合は大きいと思う。
那智は心配してくれるけど、私にしてみれば那智の方が心配だ。
4つも年下でまだ若く、どんどん新しい世界を広げている。
今日から例のドラマの撮影に入ると言っていた。
那智の愛情を疑うことはない。
でも那智を取り巻く環境はどんどん変わっていく。
そんな中で那智の中での私のポジションはどうなっていくんだろう。
そんなことを考えてしまうのは、今年ついに30歳になるという無意識の焦りのせいかもしれない。
結婚なんてろくに考えなかったのに、那智と付き合いだしてから意識するようになったなんて。
一人焦っているようで、そんな自分が嫌だった。
浮かれ気分から購買意欲を誘おうと何かと春をテーマにしたイベントが各地で展開され、それはもちろんこの高菱屋も例外ではない。
肌着売場の通路に面した入り口、中央に二体のマネキン。
いわゆるVPと呼ばれる売場で最も目立つコーナー。
先日入荷したばかりの「ジョワ・フルール」の新作を二体ともに着せ、マネキンの間の棚にはマネキン着用のカラー違いの商品と展開用の小物を並べる。
「こんな感じかな」
4月の第1週というタイミングで「ジョワ・フルール」にVP展開が与えられた。
日本初上陸から1周年記念のイベントとして一定額以上購入のお客様にノベルティをプレゼントする企画もスタートしている。
今までで一番力を入れた展開であるだけに気合いも入る。
細かい修正を加えると開店15分前の放送が流れた。
朝礼用の連絡事項を確認しようと事務所に戻る。
そのドアを開けると、黒いスーツが目の前に現れた。
「藤島さん」
「ああ、おはよう。今日からよろしく頼む」
「はい、よろしくお願いいたします。藤島マネージャー」
4月から婦人肌着売場のマネージャーとなった藤島さん。
引き継ぎの為に数日前から事務所に出入りしており、本格的な着任となるのは今日からだ。
社内人気が高いのは以前から知っていたけれど。
「…見てよ広瀬。婦人服の販売員の目がハート」
「うん、さすがだね…」
婦人服・婦人肌着合同の朝礼で、異動の時期は恒例のあいさつに藤島さんが前に出た瞬間、9割以上女性が占める販売員がざわつくのが分かった。
若菜の比喩は大袈裟ではない。
長身に長い手足、整ったルックスに加え、仕事の出来る男が纏う雰囲気というのは確かにある。
そんなところに惹かれて昔好きになったのは事実だ。恋愛感情の中に憧れの部分がかなりあった。
仕事ができるという面ではもちろん今も尊敬する憧れの上司。
でも、今はそれが恋愛感情に結び付くことはない。
そんな風に思うほど、私の中の那智が占める割合は大きいと思う。
那智は心配してくれるけど、私にしてみれば那智の方が心配だ。
4つも年下でまだ若く、どんどん新しい世界を広げている。
今日から例のドラマの撮影に入ると言っていた。
那智の愛情を疑うことはない。
でも那智を取り巻く環境はどんどん変わっていく。
そんな中で那智の中での私のポジションはどうなっていくんだろう。
そんなことを考えてしまうのは、今年ついに30歳になるという無意識の焦りのせいかもしれない。
結婚なんてろくに考えなかったのに、那智と付き合いだしてから意識するようになったなんて。
一人焦っているようで、そんな自分が嫌だった。