戸惑う暇もないくらい
その女性は後ろから見ても明らかに分かるほど良いスタイルをしていた。
顔にはブランドものの黒いサングラス。
もしかしたら業界の人かも知れないと経験と直感から予測する。
壁面に吊っている新作のブラジャーに細い手が触れた瞬間、横からさりげなく声をかけた。
「そちら入荷したばかりの新作になります。宜しければご試着だけでもできますよ」
接客用の笑顔を向けると彼女が振り向き、サングラスをずらして目を合わせた。
僅かに微笑んだその表情に惹かれ、予測が確信に変わる。
「じゃあ…試着させてください」
「かしこまりました。こちらへどうぞ」
インポートブランド専用の個室になった試着室へと案内する。
ゆったりとした広めの部屋に入ってもらい、中にあるミニテーブルにさっきの商品を乗せた。
「ボタンを押してくださいましたらすぐに参ります」
「ありがとう」
一礼して部屋を出る。
いつもより少しだけ緊張していた。
芸能人やモデルが来店することはたまにある。緊張の原因はそれではなかった。
一条あやめ。間違いない。
最近徐々にドラマやCMで見かけることの多くなった新進気鋭の女優。
そして、夏から始まる那智が出演するドラマの主演女優だった。
テレビで見るよりも実際の方が圧倒的にそのスタイルの良さが際立つ。
顔の小ささなんてほんとにお人形のようだ。
一般人とは骨格からして違う。
こんな人と那智は仕事をするんだ。
そう思うとどこか落ち着かない気持ちになった。
ピー、という手元の呼び出し端末に現実に引き戻され、慌てて試着室へ向かう。
声をかける前に軽く深呼吸。
「お客様、いかがでしょうか?」
「すみません、サイズを見ていただきたくて」
「かしこまりました。失礼します」
カーテンの向こう側には上半身下着だけの姿の一条あやめ。
その肌は同性でも思わず目を奪われるほど綺麗だった。
この仕事をしていると「ウエスト58cm」は滅多に実在しないことを知っているが、彼女はその滅多に実在しない稀有な例そのものだ。
「とても素敵にお召しいただいております。僭越ながら申し上げますと、もう少し寄せ込みをすると1カップ上げてもいいかも知れませんね」
「ほんと?」
「はい、すぐにお持ちいたします」
テレビで見るのとは違う、まだ20代前半の学生に近いような素の彼女は目をキラキラ輝かせて言った。
こういうところは同世代の女の子と変わらない。
そんな彼女に対して純粋に好感を抱くと同時に身の丈に合わない劣等感を覚えてしまったことが恥ずかしくて、別の商品を取りに行くという建前で足早に試着室を後にした。
顔にはブランドものの黒いサングラス。
もしかしたら業界の人かも知れないと経験と直感から予測する。
壁面に吊っている新作のブラジャーに細い手が触れた瞬間、横からさりげなく声をかけた。
「そちら入荷したばかりの新作になります。宜しければご試着だけでもできますよ」
接客用の笑顔を向けると彼女が振り向き、サングラスをずらして目を合わせた。
僅かに微笑んだその表情に惹かれ、予測が確信に変わる。
「じゃあ…試着させてください」
「かしこまりました。こちらへどうぞ」
インポートブランド専用の個室になった試着室へと案内する。
ゆったりとした広めの部屋に入ってもらい、中にあるミニテーブルにさっきの商品を乗せた。
「ボタンを押してくださいましたらすぐに参ります」
「ありがとう」
一礼して部屋を出る。
いつもより少しだけ緊張していた。
芸能人やモデルが来店することはたまにある。緊張の原因はそれではなかった。
一条あやめ。間違いない。
最近徐々にドラマやCMで見かけることの多くなった新進気鋭の女優。
そして、夏から始まる那智が出演するドラマの主演女優だった。
テレビで見るよりも実際の方が圧倒的にそのスタイルの良さが際立つ。
顔の小ささなんてほんとにお人形のようだ。
一般人とは骨格からして違う。
こんな人と那智は仕事をするんだ。
そう思うとどこか落ち着かない気持ちになった。
ピー、という手元の呼び出し端末に現実に引き戻され、慌てて試着室へ向かう。
声をかける前に軽く深呼吸。
「お客様、いかがでしょうか?」
「すみません、サイズを見ていただきたくて」
「かしこまりました。失礼します」
カーテンの向こう側には上半身下着だけの姿の一条あやめ。
その肌は同性でも思わず目を奪われるほど綺麗だった。
この仕事をしていると「ウエスト58cm」は滅多に実在しないことを知っているが、彼女はその滅多に実在しない稀有な例そのものだ。
「とても素敵にお召しいただいております。僭越ながら申し上げますと、もう少し寄せ込みをすると1カップ上げてもいいかも知れませんね」
「ほんと?」
「はい、すぐにお持ちいたします」
テレビで見るのとは違う、まだ20代前半の学生に近いような素の彼女は目をキラキラ輝かせて言った。
こういうところは同世代の女の子と変わらない。
そんな彼女に対して純粋に好感を抱くと同時に身の丈に合わない劣等感を覚えてしまったことが恥ずかしくて、別の商品を取りに行くという建前で足早に試着室を後にした。