戸惑う暇もないくらい
「ごちそうさまでした」
「お粗末様」
「はーちゃんのカレー美味しい」
「カレーなんて誰が作っても一緒だよ」
「何言ってんの。はーちゃんの愛情がいっぱい詰まってる」

またそんな恥ずかしいことをさらりと。
那智に見られるのが居たたまれなくなって立ち上がった。

「…お風呂、入ってくる」
「一緒に入る?」
「入らない」
「ちぇー」

那智と軽口を交わしながらリビングを出て寝室に着替えを取りに行くと、隅に置きっぱなしだった紙袋に目がいった。

成川さんに貰ったルームウェア。
バイオレットだったらそこまで子供っぽくならないかも。

せっかくもらったし、と自分を説得していつもの寝着を置いてルームウェアを持って脱衣場に向かった。



「那智、上がったよ」

髪を乾かして整え、リビングの扉を開けて中に入る。
テレビに視線が向かったままの那智は気のない返事で「うん」と言ってテレビが盛り上がると同時に笑った。

「那智、早く入らないと冷めるから」
「分かってる……って何それ、可愛いじゃんはーちゃん!」

こっちを向いた那智の視線が上下のルームウェアに注がれた。
パイル地のパーカーになった長袖に袖口はフリル、ボトムはホットパンツほどの短さに裾がフリル調になっている。
まじまじと見られるとやはり恥ずかしさが勝って顔に熱が集まった。

「えー何、新しいの買ったの?」

那智は興味津々という様子でリビングの扉の前に立ったままの私に近付いた。

「買ったんじゃなくて、もらった」
「もらった?誰に?」
「仕事の人…」

そう言った瞬間、那智の眉間に皺ができた。
明らかに不満そうな表情に焦るような気持ちになる。

「もしかしてこの間の男じゃないよな」
「ち、違うよ…これ、『ジョワ・フルール』っていうフランスのブランドで、私が担当してるの。そのブランドのセールスの人がサンプルだからって」

説明しても那智の眉間には皺が寄ったままで、疑うような顔で私を覗き込むように見つめた。

「そのセールスって男?」
「そう、だけど…」

そう言うと那智はさらに不機嫌そうな表情になってため息をついた。

「葉月さぁ…無防備なんじゃない?」
「え…?」
「そのセールス、葉月に気があるんじゃないの」
「そんなわけないよ、何言ってるの?」
「こんな脚が見える服渡すって、想像してるから。葉月がこれ着てるとこ」
「な…っ」

那智の眉間に言葉にカッと顔が赤くなる。

「変なこと言わないで…」
「男が女に服渡すのに下心がないわけないだろ」
「那智がそうだからって、成川さんはそんなんじゃ」
「葉月」
「…っ」

急に那智が私の腰に手を回し、反対の手でむき出しになっている脚を撫でた。

「んっ…やめ、那智…っ」

離れようと抵抗するもしっかり腰を支えられて離れない。

「俺を嫉妬させるのが上手いね、葉月」

息のかかる距離で囁く那智の表情が見たことのないような色香を纏い、ぞくりとした感覚が背筋を駆け上った。

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