強引年下ピアニストと恋するカクテル。
なるほどーっと穏やかに笑った颯太くんに対し、怜也はカッと頬を熱くしている。
「た、たりめーだろ! だって電話で確認したとき、お前、こいつのこと超親密そうにみいちゃんて呼ぶから」
「えー。だって妹になる予定だからそう呼ぶだけであって、恋人の美雪にはちゃんと名前で呼んでるよ」
「まぎらわしいんだよ! ……信じられねえ。俺一人焦って、落ち込んで馬鹿みたいだ。
俺がどれだけ仕事を調整して日本に来たと思ってるんだよ」
「……あの。じゃあ怜也は私の事を覚えてるの? たった一回、ピアノの発表会で一緒だったんだけど……」
尋ねながらも、私は乾いた笑顔を貼りつけていた。
そんなはず、ない。
彼は最年少で国際コンクールに入賞してしまうような天才ピアニストだ。
日本に滞在していたのも、数か月だけ。
私の通っていたピアノ教室には颯太くんがいたから数回顔を出しただけのはず。
手が届かない相手。
だけど本の一瞬でも一緒にレッスンした相手。
だから私は蒼村怜也という天才に憧れ、応援しファンになった。
そんな相手が、こんな平凡な私を覚えてるなんて信じられない。