強引年下ピアニストと恋するカクテル。
彼がいなかったら、私はピアニストになろうと馬鹿な夢を追っていたに違いない。
子どもの頃からこの差を突きつけられては、進路を決める時にはもう限界だと悟れた。
だから自分の夢を彼に託してしまったのかもしれない。
なれなかった自分を、彼に重ねて応援していたのかも。
「今、エレベーターで擦れ違ったのって蒼村怜也だったよね?」
BARに入ってきた女性二人のまっ黄色い声が聞こえてきたので、振り返ってしまった。
「なんか、クールな感じ。綺麗で怖かったよね」
「うんうん。テレビで見るより男っぽいって言うかねえ」
「テレビでここのヘリポートに降り立った蒼村怜也を見てさ、会えるか持って思って来て観て正解だったよね」
その子たちの発言に、アルコールであったかくなっていた私の体温は下がっていく。
私も彼女たちと一緒だ。
彼女たちと一緒でミーハー的に彼を憧れていた。
性質が悪いのは、そのくせ話したことがあったからちょっと優越感があっただけ。
こんな風に騒がれているだけだと知らずに、彼はきっと私の言葉を覚えていてくれているのに。
私はなんて最悪な奴なんだろう。