強引年下ピアニストと恋するカクテル。
うんうんと頷きながらご機嫌な様子で副店長の元へ歩いていく。
その後ろ姿は可愛いのに、どうして私の胸は更に高鳴るのだろう。
「グランドピアノの調整は終わったの?」
「ああ。俺好みにさせてもらったよ。他の奴には弾きにくいだろうから俺が居なくなったら戻していいよ」
――俺が居なくなったら。
そうだ。彼は来年から世界ツアーをする空の上の存在。
今此処で私に再会して、満足したらきっと戻ってしまう。
私だけ置いて行かれて辛い気持になるだけだ。
「じゃ、一杯飲んだし帰ります。御代はいくらですか?」
店長さんに聞くと、後ろ髪を縛りつつ優しい笑顔で首を振る。
「オーナーに代金は受け取るなと言われているので」
「そんな」
「甘えとけ甘えとけ。義兄の店なんて一円も払う必要ねえよ」
「……怜也君はちょっと黙って」
財布を取り出すと、副店長はがっちがちの隙のない笑顔を私に向ける。
「俺が怒られますので」
「うっじゃ、じゃあお言葉に甘えさせていただきます」