強引年下ピアニストと恋するカクテル。
憧れの天才ピアニストじゃなかったら。
人目を引く綺麗な顔と、甘い旋律を奏でることだけは凄いとは思うけど。
そう思っていたら、飲み途中で放置されていた彼のカクテルの水面がゆらゆらと優しく揺れた。
それと合わせて耳に届くのは甘く胸を締め付けられるようなバラード。
彼がピアノを弾きだしたんだ。
(本当……ピアノだけは綺麗なんだけどね)
目を閉じて聴けば、五感を全て奪われる様な美しい音色。
優しく余韻を残す高い技術力に、胸を鷲掴みにする様な表現力。
立ち止って目を奪われてしまう、吸い寄せられてしまいそうな魅力。
「あの人、本当に嫌い」
カウンターに突っ伏して、半分減ったグラスの中を覗きこむ。
指でツンツンとグラスを触ると、泡が上へと逃げていく。
「嫉妬するぐらい綺麗に弾きますね、確かに」
「そうですよ。私なんて、子ども達に強弱の弾き方を教える技術力もないし、発表会で緊張しているのに安心できるような言葉掛けもできないし。保護者には若すぎて心配だって信頼関係築けないし」