強引年下ピアニストと恋するカクテル。


不機嫌そうな男と、仕事で疲れ切った私が寄り添うように歩きながら駅へと向かう。
触れるか触れないか微妙な距離の中、吐く息だけが白く吐きだされ消えていく。
三月も半ばと言うのに急に寒さが戻った気がする。
私が寒くて両手で自分の腕を擦るっていると、その手を奪われた。

「怜也君?」
そして自分の手ごとポケットに入れると、顔を空へとあげる。

「ちょっとあっち行くぞ」

横断歩道まで登り、彼は、ライトアップを見下ろす様に手すりに寄りかかり駅を見ている。

視線を来た道に向ければ、ライトアップされた『B.C. square TOKYO』も綺麗に夜空に輝いている。
「お前、……自分にピアノの才能がないとか言ったか?」
「うわ。聞いてたの?」

不機嫌な彼からは感情が良く分からなかったけれど、黙ってじっと私を見た。


「当たり前だ。お前が入ってきた時からずっと意識はお前に向いてたんだから」
それは、どんな意味で言ったのか分からない。
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