強引年下ピアニストと恋するカクテル。

「うん」
二人で顔を見合わせて微笑んでから、のんびりとBARまでの道のりを行く。
励ましてくれたお礼を彼に伝えよう。
嫌な顔をされても、それはきっと照れてるだけだとわかったから。


開店して一時間が経過していたけれど、怜也くんはBARに一向に現れる気配がなかった。

「あれ、怜也は?」
颯太くんが電話するがつながらず、ピアノは使った形跡がない。
まわりを見ても、彼のファンの姿もない。
「二時間まえぐらいに用事があるから帰ると言って、出て行かれました」

「そう。別にピアノは彼の善意で演奏してもらってるから無理に弾かなくていいんだけど、どうしたんだろ」
不思議そうに首を傾げつつ、私の方へ振り返りメニューを見せる。
「いつもので」

「了解。着替えてくるから適当にくつろいでて」
颯太くんが奥のロッカールームへ消えると、副店長が眉をしかめて私の前へやってきた。
「何があったのか分からないのですが、今日は第三部まで弾きたいと上機嫌だったんです、怜也さん」
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