強引年下ピアニストと恋するカクテル。
「そうなんだ。仕事の方の用事なのかな?」
首をか知る私に、何故か副店長はため息をはく。
「彼が『もしかしたらもうツアーが始まるから来れない』と言っていました。ほんの数時間で気持ちが変わってしまったのでしょうか」
「もう来れない? でも颯太くんたちの挙式は一週間後だよね?」
世界ツアーが始まれば会えなくなるのは覚悟していた。
けれど、ツアーの開始が早まったってこと?
「引き止めなかったんですか?」
「あまりにも気を落とされた様な、消沈した様子だったので。
何かあったのかもしれない」
「そんな……」
(私は彼に励まされたのに)
(彼が落ち込んでいるのに呑気にお酒なんて飲んでいていいのだろうか)
「よーし。今日は俺が演奏しようかな」
ロッカーで着替えてきた颯太くんが、手にヴァイオリンを持ってやってきた。
けれど、私はもうそれどころではなかった。
せっかく、久しぶりの颯太くんの演奏が聴けるのに気持ちは焦るばかりだ。
「あの、颯太くん、あのね、怜也君が心配なの。連絡先教えてもらえる?」