強引年下ピアニストと恋するカクテル。


駅は、三月いっぱいで撤去するライトアップを見ているカップルで溢れかえっていた。

私と怜也くんも何度も駅まで送ってもらっていたので見てきた場所だ。

探しても見つからない。もしかしたらもうホームにはいっているのかもしれない。

彼が何番の乗り場に居るか分からず、もう一度携帯を鳴らした。
すると、近くで携帯が鳴る音がして辺りを見渡した。

「怜也くん!」
名前を叫ぶと、大きく身体を揺らす影が見えた。
急いで走り寄ると、ベンチで前かがみに倒れ込むように座っている怜也君がいた。

「……この楽譜忘れてるよ」
歩いて目の前まで行くと差し出した。

けれど受け取ろうとしない。
「颯太は恰好良いし良い奴だし、……アンタを笑顔にしてくれるし。お似合いだよな」
(本当だ。誤解している……)

「うん。颯太くんは好きだよ」
隣の椅子に座りながら前を向いてそう言うと、怜也くんは俯いた。
「お兄ちゃんみたいな存在として、ずっと好きだよ。これからも」
嫌いになんて、きっと誰もなれない。
颯太くんにはそんな魅力がある。
「本当に兄?」
「うん。兄としてだよ。安心した?」
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