強引同期に愛されまして。

ただ私は、その可能性を全く考えていなかった。

だって田中くんはちゃらんぽらんで女の子とみれば誰にでも「付き合わない?」とか声をかけては振られ、飲み会となれば絡んでくるし、うざいことこの上ない人なんだもの。
……ああ、考えて悲しくなってきた。なんで私、こんな男が好きなの。

待って落ち着こう。
好きな男にこんなこと言われたら普通嬉しいはずよ。

でも私、なんでか現実味を持てない。
田中くんと付き合う私? 
一緒にスーパーで買い物とか、手をつないで出かけたりとか?
いやいやいや全然想像つかないし、思い描けもしない。

あまりに何も言わない私にしびれを切らしたのか、田中くんはチッと舌打ちすると戸棚から何かを取り出した。


「とにかく。……ほら」


差し出されたのは、銀色に鈍く光る鍵だ。
防犯対策用の簡単に複製できないタイプのヤツ。意外とこのアパート、セキュリティはしっかりしてるのね、なんて頭の片隅で思う。


「もらっていい……の?」


半信半疑で聞くと、やっぱり嫌そうに眉をしかめられた。


「お前やっぱり俺のこと遊んでたのかよ」

「や、そんなことはないんだけど」

< 19 / 100 >

この作品をシェア

pagetop