強引同期に愛されまして。

こんな風に赤い顔をして照れる田中くんは本当に新鮮で、こっちもつられるというか、顔が熱くなってきて仕方ない。普段の調子いい感じと違って、妙にぶっきらぼうな感じもまたときめき加速要因というか。

ちょっと落ち着いて考えたい。でもドキドキして思考なんて全然まとまらないよ。

ただ、何か言わなきゃって思って。ぐるぐる頭の中でようやく見つけ出せた言葉がこれだった。


「……よ、よろしくお願いします」

「おう」


そっけなく言われた返事。
嬉しいのか嬉しくないのかわからないまま、私は鍵を鞄にしまう。


「じゃ、私、帰る」

「送ろうか」

「いい。真昼間だし。また明日ね」


なんとなく現実感のないまま部屋の外に出て、さっきまでの会話を反芻する。
そしてハタと気が付いた。


「私、……好きだってひと言も言ってない」


しかも言われてもいない。そうだよ。告白なんてされてないじゃん。

付き合うって、セックスした責任でってこと?
そんなんでいいの?
それこそ三十歳同士がする恋愛じゃなくない?

今なら引き返せる。扉を見てそう思ったけれど、掌に収まる鍵を返す気にはどうしてもなれなかった。

まあ、いいや。
田中くんの真意はいまいちわからないけれど……始まってしまったものは仕方ないと思うの。


< 20 / 100 >

この作品をシェア

pagetop