強引同期に愛されまして。

そのうちに、再び携帯が鳴る。相手は田中くんで、盛り上がっていた気持ちに水を差すように間抜けなことを言われた。


『俺、お前んちの最寄り駅しか知らなかった』


だからどうしてそういつも詰めが甘いの。
呆れちゃうけど、まあ仕事じゃないからそんなに苛立たない。むしろ、ちょっと可愛いかなとかは思う。


「迎えに行こうか?」

『いい。暗くなってから出るなよ。住所と部屋番号分かれば自力でいける。あ、駐車場あるか?』

「……駐車場? そんなもんないわよ」


まさか車で来たのか? つか、車なんて持ってたの?


『じゃあ近くにコンビニないのか』


そんなやり取りをして、十分後に部屋の呼び鈴が鳴った。


「はいはい」


すぐにチェーンと取って開けると、ボーダーのTシャツにパーカーを羽織ったラフな格好の田中くんが、なぜだか仏頂面で出迎えた。


「なんですぐチェーンまで開けるんだよ。あぶねぇだろ」

「だって、さっき電話あったんだからアンタに決まってるじゃないの」

「そんなのわかんねぇだろ。女の一人暮らしのくせに不用心だよな。このアパート、オートロックだってついてねぇしよ」

「そこ付けると家賃が跳ね上がるんだもん。それにアパートって仮住まいじゃない。長く住むわけでもないところにお金をかけたくないのよ」

「変なところケチるなよな」


舌打ちされたのでムッとする。ケチじゃないし。経済観念があると言っていただきたい。

< 38 / 100 >

この作品をシェア

pagetop