強引同期に愛されまして。
「お茶でいい?」
食後、飲み物を出そうとすると「俺、コーヒーが飲みたい」と言い彼が立ち上がった。
「寝られなくならない?」
「まだ二十一時だぞ? 大丈夫だろ」
鼻歌を歌いながらキッチンに立たれる。ああ、でもそこはまだ片付いてないんだよなぁ。
やかんを火にかけた彼は、流しに転がっている鍋を見て腕まくりをする。
「お湯が沸くまで洗うか」
「私がやるわよ」
「いいよ。飯作ってもらったし」
「……じゃあ、洗ったやつを拭くわ」
ひとり暮らしの部屋だから、狭いキッチンだ。並んだら腕が触れる。
いつも、叱ってばかりいるから自分が優位に立っている気がしているけど、こうして立っていればやっぱり田中くんは大きくて男の人だと実感させられる。
いつも顔を合わせれば言い合いばかりするのに、腕がぶつかるたびに言葉が見つからなくなり、心臓の音のほうが激しさを増してくる。
落ち着け私、相手は田中くんなのに。しかも茶碗を洗っているだけなのに、なにがっついた感じになっているのよ。
「三浦……」
名前を呼ばれて、ふと顔を上げた。と、どこか色気のある彼の顔が近づいてくる。目がゆっくりと細められた。これはあれだ。つまり、キスされる。
唇に息がかかった瞬間に、目を閉じた。
しかし触れる寸前で、ピーっと甲高い音を立てたのはやかんだ。
動揺した私たちはそろってそっぽを向く。