強引同期に愛されまして。

「や。やあね。普段、褒められることしないからでしょ」

「つか、お前と俺じゃ部署が違うんだからそもそもお前に叱られることなどあるはずがないのに、よく叱られている気がする」

「それはあんたがしっかりしてないからじゃないの」


言い合いをしているうちに、いつもの空気が戻ってきた。
ほっとしたような気もするけど、少しだけ残念だ。だって、あんな田中くんを拝めることなどそうそうないもの。

彼はコーヒーカップを傾けて、ズッと最後まですすると、普段通りの調子で話し始めた。


「でさ。車持ってきたから、当座必要なものだけまとめろよ」

「へ?」


しかしながら、突然話が変わったので、意味が分からなかった。
きょとんと彼を見つめると、再び目をそらしながら言う。


「だからさ、荷物多いから俺んちに来られないんだろ? 運んでやるからまとめろっつってんの。スーツケースにでも入れれば運べるだろ」

「え? ……あの」


なに? もしかして迎えに来たの?


「俺んちのほうが会社に近いし広いしセキュリティだってバッチリだろ。つか、この部屋で安穏と暮らせるとか信じられねぇから」


失敬な。うちはこれでも八畳で広いほうよ。
他の同期なんかいまだ六畳一間に住んでるやつだっているわよ?


「どこもこんなもんよ。アンタどこのお坊ちゃんなの!」


そこまで言って、ピンときた。
今までずっと、どこかピントのずれた男だと思っていた。
人の意見を聞くのが苦手で、人が自分をかまうのはあたり前だと思っている。細かいことよりも大局を見るのが得意。横柄で、でもどこか憎めない。
これって、いいところのお坊ちゃんの特性なんじゃないの?



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