強引同期に愛されまして。

「ちょ、アンタ、がっついてないって昨日言ったじゃないの」

「前言撤回する」


おい。簡単に手のひら返しするなや。


「ん、ちょ……」


感じるところを撫でられて、悔しいくらいに従順に反応する私の体が恨めしい。
呼吸が荒くなるのが止められず、絞り出すように抵抗の声をだした。


「嘘つき」

「仕方ねぇだろ。お前いい匂いするし」


何がだよ。この狼め。


「田中くんってば」

「その呼び方何とかなんねぇの」

「なんとかって何……」


会話する気があるのかないのか、話しかけるくせにキスも止めない。
どこで呼吸してどこで返事すればいいのかわからない。


「葉菜」


熱っぽい声で名前を呼ばれて、体以上に胸が疼いた。


「んっ、あ」

「葉菜。……葉菜。葉菜」


好きだと言われるわけでもない。だけど吐息交じりに呼ばれる名前は私を興奮させるのに十分な効果を持っていた。


「田中く……」


お仕置きとばかりに、下唇をかまれて、私は荒い呼吸の合間に彼の名前を口にした。


「城……治」

「ん」


名前を呼ぶだけで、やばいくらいに体が熱くなる。
そのあとは情熱任せの時間が続く。息を荒げて体を投げ出した時には、外が明るくなってきていた。


「あーもう、寝不足だわ」

「んだよ、お前だってノリノリだったじゃん」

「寝込み襲うとか卑怯よ」

「据え膳食わぬは何とかってやつだよ」


あんなに生々しい行為の後で、こんなにドライに会話できることもなんか不思議。

梶くんとなんて二年も付き合ったのに、行為の後はずっと黙ったままだったなぁ。やがてどちらからともなくシャワーを浴びるか寝てしまうかで。余韻を楽しんでいたといえばそうだけど、これはこれで、とても新鮮な気がする。

全てが予想外、なのにそれがとても楽しい。
ドキドキというよりはワクワク?
今までとは違う感覚は三十歳にして初めてだ。

< 45 / 100 >

この作品をシェア

pagetop