強引同期に愛されまして。
着信音がする。どっちからの返事だ?と思ったら田中くんのほうだった。
【駅まで着いたら連絡よこせよ】
……なんか。妙に過保護というか。
予想外に紳士でビビる。
夜遅くに家に帰ることなんてザラだし、帰り道を心配されたり、ましてアパートのセキュリティにとやかく言われることなど今までにはなかった。
【うん。ありがと】
ここは素直に返しておこうか。メールでくらい素直にならないと可愛げのない女だと思われるしね。
*
さて、久しぶりに元カレと会うのに、武装は必要だ。
これは私の個人的な感覚なのかもしれないけれど、すっぴんに近いナチュラルメイクの顔って、気を許した人間以外には見せたくない。
きっちりお化粧するのは、もうあなたとは他人ですよ、のアピール。
梶くんならばそれを、敏感に感じ取ってくれるのではないかと思っている。
そんなわけで、終業後化粧室で化粧直しをしていたら、和賀さんと出くわした。
「あれ、三浦さん。今日は早いですね」
「ええ。仕事ない日まで残業することもないし。ちょっと約束もあるしね」
「そっかー。お疲れ様です。私はもうちょっとかかりそうです」
この子こそ、残業はできるだけしないタイプだ。なまじ能力もあるので、就業時間中にやるべきことを終わらせてとっとと帰っていく。その彼女が居残っているなんて、業務が詰まっているのかしら。
「納期近いんだっけ?」
「いえ。打ち合わせで」
ああそうか。打ち合わせだとどうしても人に合わせざるを得ないもんな。
今彼女がやっているのは、永屋くんの担当案件だったかな。