強引同期に愛されまして。

 梶くんとの待ち合わせ場所は、彼の職場の最寄り駅だ。
自分の会社の最寄り駅だと会社の人に見つかるかもしれないし、という理由だったけど、移動時間についつい余計なことを考えてしまう。

和賀さんから聞いた話は、正直ショックだった。
もちろん、今すぐ結婚したいとか思っているわけでも、田中くんと結婚すると決めているわけでもないけれど。
先にうごめく暗雲を垣間見ただけで、こんなにダメージを受けていることに自分で驚いた。

私は、無意識に彼との未来を考えていたのかな。

まあ三十だから、結婚に対して焦りはあるよね。
いつまでも絵空事だとは思っていない。
ただ仕事は続けたいし、主婦になりたいという意欲がそこまであるわけでもない。
私生活の充実と結婚がイコールにならないから、今すぐしたいと思えないだけ。

でも、先のない人と付き合う歳でもないのも事実だ。


車内アナウンスの後で電車が止まる。
もう降りる駅だ。

ホームに下り立ち数歩歩いて、私は立ち止まってしまった。
急に私が止まったからか、脇をすり抜けていく人が怪訝な顔をしている。

ごめんなさい。迷惑よね。
分かっているんだけど足が動かない。

人波が途切れたところでスマホを取り出し、彼の番号を表示させる。


“あんた、私とどういうつもりで付き合ってんの?”


そう聞いて、もし“付き合ってるつもりもない”とか言われたらどうしたらいい?


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