強引同期に愛されまして。

俺んちに住めばいいじゃん、とは言われたけど、それだけなんだよね。
遊びのつもりじゃないって言うけど、好きだとも愛しているとも言われたことはない。
まさかセフレ扱いされてるんじゃないわよね。でもそれなら、『弄んだのか?』なんてセリフは出てこないだろうし。

なんかグルグルする。
もうやだ。他に考えなきゃならないことがいっぱいあるはずなのに、頭の中が田中くんでいっぱい。
恋愛って本当に面倒くさい。

悶々としているうちに待ち合わせ場所につく。
駄目だ。頭を切り替えなきゃ。


時間は五分前だけど当然のように梶くんはそこにいた。私の彼のデートは、どちらも遅れることがないからいつだって五分前からのスタートだった。

ダークグレーのスーツに薄手のトレンチコート。背丈と肩幅があるから、ただ立っているだけでさまになる。
格好いいし、話し上手で、彼は理想の彼氏だった。

似たもの同士だったんだと思う。だから楽だったし、悩まされることもなかった。
田中くんとは、全然違う。


「……葉菜!」


梶くんは、私に気付くと目を細めて笑い、軽く手を振った。
ホッとしてしまうのは、長年の付き合いの気安さからかしら。
黙って手を振り返したら、彼は不思議そうに問いかける。


「どうした?」

「なにが?」

「元気なさそうだから」


梶くんは気遣い屋さんで、優しい。本当に、日本に帰ってきた今、彼には何の不満もないはずなんだけどな。

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