強引同期に愛されまして。
私は彼から三十センチの距離で立ち止まった。歩いていても、体が触れることはない距離。
私の中では、これが他人との距離だ。
これ以上踏み込めば恋人の距離になる。だから、これ以上は近づかない。
「葉菜、変な顔してる」
「いい話じゃないからね」
「まあそうなんだろうなとは思った」
「うん。そろそろはっきりさせておこうと思って。私、梶くんとヨリは戻さない」
自分自身にも言い聞かせるように、はっきりと言う。
未練なんて見せない。田中くんとの未来が不安でも、この人に甘えるのは絶対に間違っていると思うから。
「……なんで?」
「一応、田中くんと付き合うことになったので。これからはこういう誘いは受けられない」
梶くんは一瞬間をあけたけど、低い声でぽそりと言った。
「そうか。……おめでとう」
「うん。ありがとう」
この人はこういう人だ。
人のことを思いやって、いつも周りに気を使う。
「田中くんは、葉菜のこと大事にしてくれる?」
「……どうなのかな。予測がつかないことばっかり。先のことも全然想像つかないし」
「葉菜は仕事を続けたかったんだろ? 俺と別れたのはそういう理由だったと思ってる。彼はそれをかなえてくれるそう? 同じ社内だとやりにくさとかあるんじゃないかって思うけど」
同じ社内以前に、結婚する気があるのかもわからないし、専業主婦になってほしいのかもしれないし、訳が分からないことだらけだわよ。
だけど。