強引同期に愛されまして。

「多分やりにくいだろうし、あいつが何考えているのかも分からないし、正直分からないことだらけだけど」

「……けど?」


だけど今も、頭の中で彼が私に呼びかける。

なにやってんだよ、昔の男となんか会ってんじゃねーよって、拗ねた顔で言っているのが想像できる。
私はその顔に、たぶんとても弱いんだ。
心配なんかしてんじゃないわよって、安心させてやりたくなる。


「今はとにかく彼が好きだから」


だから、傍にいたい。振り回されても、一緒にいたい。
もしかしたらいつか後悔するのかもしれないけど、でも離れるのは今じゃない。


「そうか」

「うん。だから、ごめんね。それだけ伝えに来たの」


手を振って、三十センチから距離を伸ばす。六十センチ、九十センチ、他人の距離から関わらない人の距離になる。

梶くんとはこれで終わり。そう思ったのに。


「……待って」


突然腕を引っ張られて、心臓が止まるかと思った。
広がったはずの距離は、あっという間に縮まって、今はほんの五センチ程度。それも、梶くんが力をいれたらもっと近づく可能性はある。


「俺は、結婚するのは葉菜以外に考えられない。一度離れて分かったんだ。もう失いたくない。俺なら君の望むようにできる。俺は諦めないから」


物分かりがいいはずの梶くんの、予想外な言葉は、さしもの私をも揺るがす効果を持っていた。


「梶くん、離して」

「離したくない。だって。葉菜だって迷ってるじゃないか」


人のことを良く見ている男は、私の迷いにもちゃんと気が付いているらしい。

その情熱は、いつだって“想定内”だった梶くんには持ちえないものだと思っていたから。
心臓が早鐘を打つ。喉のあたりが熱くて、うまく呼吸ができなくなる。


彼の手に力がこもったのを感じて、思わず振り払った。


「あ……」


梶くんは傷ついたような顔をしている。しまったと思ったけれど、それ以上に、心臓のドキドキが激しすぎて自分が制御できない。


「ご……ごめん!」


気が付けば、私は彼を押しのけて走り出していた。



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