強引同期に愛されまして。

「ごめん、会議室使用中?」


扉を開けて顔を出したのは、印刷資料を抱えた永屋くん。手にホッチキスを持っているところを見ると、綴じ作業をするつもりだったのか。


「あれ三浦? ……と、田中。ああ悪い。……仕事中だからほどほどにな」


私たちを見ると、キョトンとした後呆れたように言われて、ちょっとイラっとしちゃう。
確かに、ちょっとずれていきそうにはなったけどさ、一応仕事の話をするためにここに来たんであって、秘密のオフィスラブをするために会議室をとったわけじゃないわよ。


「誤解よ。ちゃんと仕事してます」

「どうだか。鏡見てみれば」


そういい捨てて、永屋くんはさっさと扉を閉めて行ってしまう。

全く失礼な。でも、一体私はどんな顔をしてるっていうの。
両手で頬を押さえて、深呼吸してから田中くんを見る。彼も、何とも言えないような赤い顔をしていて。
だけど一度中断された仕事じゃない話を、また再開するのは違う気がした。


「とにかく。仕事の話……しましょう。今度打ち合わせに行くのいつ? 私、同行してシステムの要件聞きにいこうか」

「ああ。助かる」

「少ない予算で、効率の良いシステムを作ればいいんでしょ。望むところよ。直接話を聞けば、一番顧客に必要な事も分かると思うし、そこに重点を置いたプログラムにすれば満足度は上げられると思う」

「おう」


ようやくいつもの仕事のペースに戻って来て、楽に呼吸ができるようになる。
そうしたら、安心したからかポロッと余計なことを言ってしまった。


「アンタを助けられるのは私しかいないでしょう?」


図々しかったかなとちらりと田中くんを見ると、彼はくしゃりと顔をゆがめて、無防備に笑った。


「……サンキュー」


その顔があまりに可愛くて、心臓が止まるかと思った。ああやばい。今すぐキスしたい。いやしないけど。
田中くんにこんなに夢中になる自分が嘘みたい。


「じゃ、じゃあ、私戻るわね」

「ああ。……葉菜」


名前で呼ばれて振り向くと、彼は、手で鍵を開ける動作をして笑った。


「今日は来るよな。待ってる」

「う、うん」


くすぐったいやり取りに、顔が熱くなってきて。
そっけない態度で会議室をでたものの、このまま自席に戻れそうにもなく、私はとりあえずトイレに駆け込んだ。

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