強引同期に愛されまして。


私と田中くんは同期だけど、私は別に最初から彼が好きだったわけじゃない。
むしろ面倒だったし、近くにいられると迷惑の域だった。
ただ、発想はいい癖に細かい算段が苦手で失敗するところとか、詰めの甘さが目について放っておけなかっただけ。

しっかり者だと周りが思っている通り、私はオカン気質だ。
できない人を見ればフォローしたくなるし、できすぎる人を見れば無理をしていないか心配になる。
そんな自分は人の手を借りるのはあまり好きじゃないので、できるだけなんでも自分でできるようにと努めてきた。


私が社会人になってから初めて付き合ったのは、取引先の相手だった。
名前は梶 雅也(かじ まさや)。尊敬できる、いわゆる“完璧な人”だった。

おしゃれで読書家で、物腰の柔らかくて理知的で。衣料品の仲買・販売の大手であるトレンドハウスに勤め、三十代にして営業経験もバイヤー経験もある。

私が出会ったときは、社内システムの管理のほうに回っていたけれど、ツーといえばカーと通じるような理解の速さが小気味よくて、すぐに気が合った。

お互い仕事が忙しく、外で会う時間を捻出するのに疲れてきた私たちは、付き合って一年後に同棲を始めた。

自分のことは自分でできる手のかからない人で、私たちは自分のペースを保ったまま、良好な関係を保ちつつ暮らしていた。

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