強引同期に愛されまして。

同棲は結婚の前段階だという人もいるけれど、私はむしろ結婚願望が薄れていった。

毎日会えるようになって、恋愛に無理をしなくてよくなった。となれば仕事にどんどん本腰が入っていく。
のめりこめばのめりこむほど仕事は楽しく、彼との生活は日常へと変わっていく。

家事は当番制、予定の変更はメールで。スケジュール管理ができる者同士の生活では、セックスでさえルーティンワークのひとつに成り下がる。
それが不満だったわけじゃない。好きな人と一緒にいて、仕事を満喫できるんだから、最高だと思っていた。

反面、どうしても結婚は面倒としか思えなかった。

すでに一緒に暮らしているのだから、結婚イコール子作り解禁だ。そうしたら仕事だって制限されるし、思うようにいかなくなる。

そんな思いをくすぶらせていた私に彼が告げたのは、「海外転勤についてきてほしい」というプロポーズだった。

最初に思ったのが、“嫌だ”ということ。
勿論彼は好きだし不満もない。だけど、仕事を辞めてついていくなんていう選択肢は私にはなかった。

でもまだ好きだったから別れようとも思えず、折衷案として出されたのは遠距離恋愛。
頑張った……つもりだったけれど、結局、一年ももたなかった。

好きって気持ちも、距離が離れれば薄れていく。
気持ちは絵の具、距離は水。そう思えば、薄れていく気持ちも納得がいった。
何より、あの人がいなくても生きていけるんだと思えてしまったのは決定的だったと思う。

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