鎖骨を噛む





銭湯は、若い人は私一人で、あとはみんな60歳を過ぎているであろうお年寄りばかりだった。まあ、若い女の人がいたからって、別に話しかけるつもりはなかったけど、やっぱり浮いている気がする。ゲートボール場に一人迷い込んだみたい。でも、お風呂から上がれば、待っている人がいる。マッサージチェアに並んで座って、コーヒー牛乳を飲む。そして、巨人ファンの番頭のおじさんに気を遣いながら、カープの応援をする。エルドレッドがホームランを打つと、ハイタッチする。菊池がセカンドゴロを捌くと、拍手する。野村が三振を取ると、ガッツポーズをする。



お風呂から上がって、バスタオルで身体を拭き、服を着た。鏡の前でドライヤーで髪を乾かしながら、自分のすっぴんの顔を見た。なかなか悪くないじゃないの。彼氏ができると、自分のすっぴんにも自信が持てるから不思議。



あれ? 私って、健司と付き合ってるんだっけ?



正式な告白みたいなものはなかったけど、こうやって一緒に過ごしたり、花見をしたり、ジグソーパズルを作ったり、銭湯に来たり、無理矢理だけどキスもしたり……。これって付き合ってるってことだよね? そういう風に捉えていいんだよね? どうなんだろう、わかんない。曖昧な関係でこのままズルズル行くのは、さすがにもどかしいというか、もし健司に彼女ができても、私は文句を言えない。「オレたち、別に付き合ってないし。」と言われてしまえばおしまいだ。私がどんなに泣いて、「一緒に暮らしてるってことはそういうことでしょ!」と叫んでも、一蹴されるだけ。惨めになるだけ。




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