鎖骨を噛む





「今日、何曜日?」



健司がビーチのジグソーパズルを眺めながら訊いた。



「土曜日。」



「ってことは、バイトだっけ?」



「うん。」うん……バイト……。



「はあ……言い訳どうしよっかな……。」



「そういえば、オレが初めてこの家に来た時、バイトずる休みしたんだよな。」



「そうなんだよねー。風邪なんかじゃ休ませてくれないだろうし……。」



これがブラックバイトの実態だ。バイトを休むことは容易じゃない。どうしても休む場合は、代わりの人を自分で見つけて、その人に交渉しなきゃいけない。まあ、大抵代わってくれない。



「じゃあ、法事にしたら?」



「法事もダメ。だって、無断欠勤だもん。」



「じゃあ、入院したことにすれば? 過労で倒れて、救急車で運ばれて、異常はなかったけど、念のため入院してましたって。それで、連絡するのを忘れたことを謝ればいいよ。怒られるより、心配されるんじゃないかな?」



過労で救急車に入院……。



「さすがに嘘が壮大過ぎない?」



「それくらいがいいんだよ。」健司はビーチのジグソーパズルの真ん中らへんのピースをそっと外した。



「嘘は壮大な方がかえってバレにくいんだ。」




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