鎖骨を噛む
「ど……どうして!? どうして私なの!? 私が何をしたって言うの!?」
「ホントは依頼人の秘密は厳守する決まりになってるんだけど……いいよ。一宿一飯の恩義ってやつか? 話してやるよ。」
健司はナイフを右手から左手に持ち替えた。
「須藤正人(すどうまさと)って知ってるか?」
須藤……正人……はっ!
「まさか、あの須藤先輩のこと!?」
「そう。お前が高校の時、友達とボコボコにして、二度とサッカーができない脚にさせた、須藤正人だよ。彼が依頼人だ。彼はオレのサッカー部の後輩でな、特に可愛がってたんだ。」
「須藤先輩が……なんで今更……。」
「それは金を作るためだったんじゃないか? 引きずる足で工場で必死に働いて、それで稼いだ金が300万。そのうちオレの成功報酬は200万。あとの100万は仲介人で分配した。」
「そんな……そんなことって……。」
私は足が震えて、腰が抜けて、その場にパタリと座り込んでしまった。
「あるんだな、これが。」
健司はニヤッと笑って、またナイフを左手から右手に持ち替えた。