鎖骨を噛む





健司がムルソーの記憶を持っていて、しかも殺し屋で、その依頼人が私が好きになってフラれた腹いせでボコボコにした須藤先輩で……。頭が混乱する。パニックだ。ナイフを私に向けているのは私の愛した人……。



「私たちの中に愛はなかったの!?」



「あるわけないだろ。付き合ってもないし。」



私には抵抗する力がなくなった。あのナイフで身体じゃない、心をグサッと刺されて、えぐられた気持ち。たった一言で心を殺されてしまった。



健司は私の前でしゃがみ込んで、ナイフの刃の側面で私の肩をポンポンと叩いた。



「須藤はなあ、オレなんかとは違って、本気でプロを目指してたんだ。練習後も一人でボール蹴ってさ。誰よりも努力して、その努力で1年生でレギュラーを勝ち取った。頑張ってる奴の努力と夢をお前は奪ったんだ。最低なやり方でな。オレはお前みたいな姑息な女は許せねえ。お前みたいな姑息な女は死んだ方が社会のためにいい。須藤の汗が染み込んだ金で、死ね!」



グサッ!



健司はナイフを私の胸に突き刺した。その瞬間、何かが込み上げてきて、思わず刺されたところを押さえた。健司はナイフを抜いた。そしてまた刺した。私の手足はだらしなく広がった。また抜いた。また刺した。何回刺されて、何回抜かれただろう____




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