鎖骨を噛む





店長は、30代前半の男の人で、女物のタバコを吸っている。人はいいんだけど、店長という立場からなのか、少し厳しい。普段は、事務室に入ってパソコンを前に、カタカタとやってるけど、たまにレジに出てくると、少し緊張する。



ただ、一つ。いつも笑ってしまいそうなのが、



「あざまーす、っせー。」



「ありがとうございます。またお越しくださいませ。」の言い方。



「ありがとうございます。」を「あざまーす。」は、わかる。でも、「またお越しくださいませ。」を「っせー。」に省略するのは、日本広しと言えども、うちの店長だけじゃないだろうか。



同じバイトの先輩の佐藤さんは、よく店長のこの「あざまーす、っせー。」の真似をして、私を笑わせようとする。



佐藤さんは、24歳のイケメン。でも、フリーターだから、減点。高校1年の時、野球で甲子園に行ったとかで、やたらその時の自慢話をしてくる。



「1年でベンチに入ってたのはオレだけなんだよ。」



とか、



「1点差の9回表、ツーアウト2塁、あの時、監督がオレを代打で使ってたら、絶対勝てたんだよ。」



だの。なんだ、ベンチだったんじゃないの。って心の中で思ったけど、口には出さないで、女子特有の愛想笑いで誤魔化した。



店長ネタもしつこいくらいにやってくる。でも、オリジナルで充分に面白いものは、いくら真似をしても面白くない。芸人さんのネタを素人がコピーするようなものだ。白けてしまうの。



それに気づかない佐藤さんは、可哀想な人だ。お金もない。過去の栄光(かどうかも私には理解できないけど。)にしがみついて生きてる人。でも、天涯孤独にはならないんだろうとは思う。バカな女がこの世には腐るほどいるのだから。




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