鎖骨を噛む
私は、佐藤さんが自転車で帰ったのを見計らって、私服でバックヤードを出た。
そして、買い物かごに、300円もしないのり弁と、野菜ジュース、明日の朝の菓子パンと、お昼のカップ麺を買った。
「りさちゃん、自分でご飯作らない? 自分でご飯作らないとダメ。身体に悪い。」
レジで、21:00からバイトのリャンさんにそう言われた。リャンさんは、27歳の中国人留学生で、ポニーテールの女性。決して綺麗とは言えないけど、唯一、私がバイト仲間の中で自然体で話せる人だ。
「リャンさんこそ、ご飯作ってます?」
「私? 私作るよ。春巻きとか。私の作る春巻き、天才!」
リャンさんと日本語で会話していると、こっちまでリャンさんと同じイントネーションで話してしまう。外国人との日本語での会話あるある。
でも、そうやって、外国人に合わせたイントネーションで会話するから、いつまで経っても、外国人は、日本語の正しいイントネーションを学べない。外国人が日本語のイントネーションが悪いのは、日本人のせいじゃないかと思う。
「それじゃ、気を付けて!」
「はい。お疲れさまでしたー!」
コンビニを出て、家まで歩く。月が出ていて、ちらほらと星も見える。スカイツリーは、ライトアップが終わっていて、周りの輪っかみたいなところがクルクルと回っているだけ。スカイツリーが見えない場所って、東京にはないんじゃないかな。
200メートルほど歩いたところで、傘を忘れていることに気づいたけど、めんどくさいから取りに帰ることはしなかった。どうせバイト先で買ったビニール傘だ。捨ててもらっても大いにかまわない。