鎖骨を噛む





「えっと……今、バイトが終わって帰ってきました。」



なんでこのタイミングで、こんなどうでもいいことを言ってしまったのだろう。顔が紅潮していくのが、スタンドミラーで確認しなくても、じわっと広がる手汗でわかる。



「コンビニでバイトしてます。まだ始めてから1週間ほどしか経ってません。ご飯はいつも、バイト先のコンビニで買ってきます。今日は、のり弁にしました。のり弁は安くて、いっぱいおかずが入ってるので、好きです。ムルソーさんはのり弁、好きですか?」



小学生の頃から、緊張すると意味もないことをベラベラと話す癖が私にはある。その癖は18歳になっても治ってないらしい。



「コンビニでレジ打ちをするのは、大変です。お弁当を持った人が3人も並ぶと、困ります。温めをしなきゃいけないので……もし、私が困っていたら、ムルソーさんにマスクを被って、コンビニ強盗に来てほしいです。っていうか、ムルソーさんが盗撮魔じゃなくて、コンビニ強盗だったらよかったのにって思います。だって、そうしたらムルソーさんがどんな人かわかるし、もし、私が想像してるイケメンだったら、『りさ! キミを盗みに来た!』なんて言われて、連れ去られちゃったりなんかした暁には……キャー! なーんて。」



オーマイゴッド! 思わず顔を両手で覆った。顔から汗が噴き出てきそうだ。



「あの、ご飯まだなので、食べます……って言っても、食べてるところも撮られてるんですよね……これを見て、一緒にご飯を食べましょう。そしたら、一緒に食事してるみたいで、のり弁がフレンチに変わるような気がしませんか?」



知らねえよ! もう嫌! あー、嫌!




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