鎖骨を噛む





「質問がありましたね。名前の由来は、既に書いたので、他の質問に答えたいと思います。のり弁は私も好きです。どうしてあれだけ安く、ボリューミーにできるのか、不思議でたまりません。のりとご飯の間におかかが敷き詰められていると、尚良しです。」



あー! これわかる! おかかが敷き詰められていると、なんか得した気分になるんだよねー! のりしっとり、そして味の付いたおかかがご飯とマッチして、他のコロッケだったり、魚フライだったり、しわしわのちくわの天ぷらが引き立つ。どんなに役者が大根でも、話さえ面白かったら成り立っちゃう、ドラマみたい。のり弁はドラマだ。ジャンルは、ラブストーリーかな?



「コンビニでのアルバイト、いつもお疲れ様です。私に度胸があれば、あなたを盗みに行きたい。でも、度胸がないので、それはできません。ただ、こうしてあなたの私生活を見れるのは、私だけなんだと思うと、独占したような気持ちになって、嬉しくなるのです。おかしいと思いませんか? 子供の頃、兄弟で分け合ったドーナツは、今では食べたい時に食べたいだけ食べられるというのに、子供の頃に分け合ったドーナツの方が美味しく感じるでしょう? でも、あなたを誰かと分け合うよりも、独占している方がより価値のあることだと感じる。やっぱり、私は歪んでいるのでしょうか。」



そう言えばそうだなー。妹とおやつを半分こすると、食べる量が少なくなって、妹なんていなければよかったのにって思ってたけど、あの時のおやつの方が美味しく感じる。でも、私もムルソーさんが私以外の他の誰かを同じように盗撮していると思うと、ちょっと嫉妬する。そう思う私も、もしかしたら歪んでいるのかもしれない。



「お風呂は私は、1日おきの頻度で入ります。不潔ですかね? でも、1日空いたお風呂も気持ちいいんですよ。まるで、2日分の疲れを一気に洗い流せる気がして。部屋の掃除を汚くなる最高点まで溜め込んで、一気に綺麗にした後に眠る感覚に似ているかもしれません。」



なるほど、なるほど……。私も1日置きのシャワー生活、始めてみようかな。もしかしたら、光熱費の節約に繋がるかもしれない。



「バイトのシフトの件、了解しました。あなたがバイトをしている間にデータを受け取りに来ることにします。なので、また今回のように伝えたいことが合ったら、カメラにメッセージを吹き込んでください。お待ちしております。 ムルソー」



私は、この手紙で、ムルソーさんに少し、近づいた気がする。信用されているかどうかはわからないけど、私はムルソーさんを全力で信用したくなった。



確かに私とちょっと違う価値観を持っているところもあるけど、それでいい。それがいいんだよ。むしろ、同調癖のある人より信用できる。同調癖のある人は、「本当に自分の気持ちとかあるの?」って思いが渦巻いて、そういう人、どんなイケメンでも、金持ちでも嫌い。



価値観が違って当然なんだ。同じものを食べて、同じ時間を、同じように過ごしてきたわけじゃないんだから。それに、私の目は2つしかない。この2つの目で見れる世界には限界がある。私は、ムルソーさんの持っているもう2つの目を使うことによって、私の2つの目では見れなかった世界を見ることができる。



この置き手紙で、私の中の世界が少し広くなった気がする。孤独じゃないんだ。そう思えるようになった。




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