鎖骨を噛む
8 恋は車と一緒で走り出したら止まらない
暗い夜道を缶コーヒー片手に歩く。車の通りはほとんどなくて、まるでこの世界を支配したような気持ちになって、道路の真ん中を威風堂々と歩く。
悲しい王女様だなって思う。誰もいないから、王女様になる。そこには、政治も戦争もないけど、平和もない。空虚と孤独とを入り混ぜた風が髪を揺らすだけ。
それでも、缶コーヒーが美味しい。少し甘くて、ちょっと苦くて、それがちょうどいいハーモニーを作り出す。こんなに小さな缶に私の安らぎがギュッと詰まっている。缶コーヒーを作った人は神様だ。王女様の私でさえもただただ両手を合わせて祈ることしかできない。
孤独を忘れさせてくれるような気がした。ほんの少しだけだけど、気を紛らわしてくれる。歩く足音がやけに大きく響いた。私は生まれつき、歩き方に変な癖があって、靴の踵の裏が一番にすり減っていく歩き方をしている。この黒のスニーカーも踵の裏の模様が日に日に薄れていくのを感じる。