鎖骨を噛む





ムルソーさんが振り返った。思わず息を呑んだ。歳は20代前半くらい。切れ長の目、丁寧に整えられた眉毛。スラっとした鼻。締まった口元。カッコイイ。もんのすごくカッコイイ。え? 何? 芸能人? 俳優かモデルなの? チョーカッコイイんですけどー!



でも、そんな恵まれた容姿を人がどうしてこんなことしてるんだろう。なんで盗撮なんかしてるんだろう。あの容姿だったら、絶対女は放っておかないし、そんな女は死ねばいい。性格がよっぽど悪いとか? でも、あの達筆の文面からして、そうは考えにくい。



だったらなんで?



ムルソーさんは、4台のカメラからSDカードを取った後、こたつ机について、私のパソコンを起動させた。それからキッチンに行き、やかんに火をかけた。お茶でも淹れるつもりなのか。図々しいけど、それは私が良しとしたんだった。確かに自由に使っていいって言ったけど、私の知らないところでここまで自由に使われると、ちょっと引いちゃう。でも、それくらいがいい。完璧過ぎるとかえって怖い。人はどこか欠けている方がいい。



紅茶を淹れて、それを啜りながらムルソーさんがパソコンの前に戻って来た。猫舌みたいだ。可愛い。目が少し悪いのか、パソコンを見る時、目を細めている。右手を口元に当てている。これって癖なのかな? イヤホンをして、じっと動画を見ている。ポケットからタバコを取り出して、火をつけた。火のついたタバコを咥えながら、カバンをゴソゴソと探って、銀の灰皿を取り出した。私の部屋でタバコ吸ってたんだ、やっぱり。




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