鎖骨を噛む





「ところで、これは一体、どういうことなのかな? 説明してほしいんだけど……。」



説明……かあ。なんて言えばいいだろう。なんて言えば都合がいいだろう。でも、黙ったままだといろいろと怪しまれてしまう。何か喋らないと。



「私はあなたのことが好きすぎる、普通の18歳の女の子です!」



やってしまった。咄嗟に出た言葉とはいえ、なんてバカなことを……。言ってしまったものは返って来ない。返って来ないけど、消すことができるということはわかった。でも、打ちどころが悪いのが重なって、記憶を取り戻してしまったら、それはそれでまずい。ハイリスク。ここは帳尻を合わせるしかない。



「オレのことが好き? ってかキミ、未成年!?」



彼は驚いたように腰を一瞬浮かした。ここでわかったことは、彼は未成年じゃない、成人男性だってことだ。



「そうです。未成年です。高校は卒業しています。バカ高校だけどね。」



好きな人の前だと、ついつい余計なことまで言ってしまう。恋って不思議。盲目なんてよく言うけど、ホントそう。彼以外見えなくなって、彼以外考えられなくなって、素直な自分が顔を覗かせる。だから、余計なことをついつい言ってしまう。これは、消そうとしている記憶が蘇るのも時間の問題かもしれない。記憶の扉を開ける、キーワードは言わないように、言わないように……。



「そっか。未成年なんだ。ということは、オレは、未成年の女の子に拉致されたってこと? それとも他にも仲間がいたりするのかな?」



「いない。ここにいるのは、私とあなただけ。」



言わないように心がけていたら、いつの間にか敬語を欠いていた。まあいっか、それくらいは。



「ということは、二人っきりってことだね?」



「そう。二人っきり。」



ここは二人だけの世界。それも好きな人と二人っきり。好きな人と同じ時間を共有し合っている。同棲みたい!




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