鎖骨を噛む
「あの……りささん。」
「何よ?」
「りささんは、彼氏いるんですか?」
質問してくるなんていい度胸してるじゃないの、この奴隷は。まあ、いっか。答えてあげても。
「いないわよ。いたら、こんなことしない。」
「僕のその……どこが好きなんですか?」
調子に乗ってきたじゃないの、健司。ちょっと緊張感が薄れてきたかな……。まずいまずい。恐怖心を与えて、マインドコントロールしないと。
「私、あんたのこと好きって言ったかしら?」
傍にあったふっといつっかえ棒を持って、健司の顎にちょんちょんと当てた。彼は顔を仰け反って、不安げな表情を浮かべた。
「私があんたのことを好きなんじゃなくて、あんたが私のことを好きだって思ってんじゃないの? 自分の願望を押し付けないでよね。」
とんだブーメラン発言だなって思う。私にそっくりそのまま当てはまってる言葉じゃないの。でも、それを悟られたらダメ。
「あんたが私のこと、好きなんでしょ?」
「い、いや……。」
「い、いや……。」って、何その反応。ムカつく。乙女心をなんだと思ってんだろうか、健司。
私は彼の顔に近づき、その唇に自分の唇を合わせた。
「これでも?」
私は無理矢理ニヤッと笑って、キスなんてなんでもないのよって感じを出した。彼は何も言わなくなった。やっちゃった、ファーストキス! すっごい! キスってこんな感じなんだ……。キスってこんな味なんだ……。知らなかった。
その時、インターホンが鳴った。ピザが来た。ゴングに救われて、私はグリーンのカーテンをくぐった。
それから……ファーストキスの余韻をしばらく味わった。思わず自分で自分の肩を抱いて、その場にうずくまった。彼には見えていない。はあー、やっばい! 暑いような、寒いような、震えるほどのこの感じ、何? 何? 何?
疑問が解けないうちに、もう一度インターホンが鳴って、ドアをドンドンする音が響いて、平静さを取り戻して、ドアを開けた。
彼は、私の言いつけ通り、ピザを受け取るまで、物音一つ立てなかった。