鎖骨を噛む





健司は私がピザを食べるのを横目で見ながら、黙っていた。つまんない。何か話してくれればいいのに。ってか、健司は人がピザを食べているのを黙って見ているだけで楽しいんだろうか……。私は楽しくない。せっかくの美味しいピザが、トマトソースの酸味が、チーズのなめらかさが、ベーコンのジューシーさが、霞んでしまう。どうしてだろう……。好きな人の前なのに、ピザがくどい。



「ねえ、健司。何か喋りなさいよ。」



「喋るって言っても……。」



自分で訊いてて、確かになって思った。急に「何か喋りなさいよ。」なんて言われても、何を話していいかわからないのは当たり前だ。健司はお笑い芸人じゃない。



「そうねえ……なら、健司の過去について教えてよ。」



「過去……ですか?」



「そう、過去。健司はどこで生まれて、どこでどういう風に育って、どういう女の人と付き合って、何をしている時が幸せで、フリーターのくせに、どうやって暮らしているかとか、そういうこと。こういうの、身の上話って言うのかしら?」



「なるほど……。」健司は胡坐を掻いた。



「話しましょうか、それじゃあ。」



そして、話し始めた。




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