鎖骨を噛む





「そして、サッカーを初めてやりました。それと並行して、少年相撲もやっていました。学校に土俵があって、小学生用の回しがあったんです。それを巻いて、先生に稽古を付けてもらう。元々、身体はそんなに強い方じゃなかったんですけど、サッカーよりも筋は良かったと思います。でも、スポーツには必ずライバルが出てきます。そのライバルが、僕には坊主のぽっちゃりとした男の子でした。」



「名前は憶えてるの?」



「これがどういうわけか曖昧で、憶えてないんです。こぶ……小久保くん? だった気がします。体格でも、相撲でも絶対に勝てなくて、それでも僕は諦めずに向かっていったんです。何度も取り組みを繰り返して、その度に押し出されたり、回しを掴まれて投げ飛ばされたり。そんなある日、その小久保くんに勝てたんです。どうやって勝ったのか、がむしゃらで憶えていません。ただ、勝ったことは憶えています。それで、相撲は辞めました。」



「どうして辞めたの?」



「達成感。」



「達成感?」



「そう、達成感。」



私はピザを食べることをすっかり辞めていた。




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