鎖骨を噛む
12 心のフリーターになりたい
健司は、マルゲリータのピザを5ピースも食べた。私の手から。私は犬に餌をやるように、彼は犬のように高い宅配ピザを食べた。
食べ終わった頃には、もう0時を回っていて、私はベッドに入った。彼も私がベッドに入ったのを見て、フローリングの上で横になった。
……さすがに可哀想になった。いくら私を盗撮していたからと言って、いくら私を殺そうとしたからと言って、今の彼にはその時の記憶がまるでない。ただ、拉致されて、監禁されていると思っている。自分に都合の悪い記憶だけを失うなんて、タチは悪いけど、少なくとも今の彼には罪はない。
「しょうがないわね……。入りなさい。」
私は布団を上げて、彼をベッドに誘った。好きな人をこんな形でベッドに誘うなんて、ちょっと恥ずかしかったし、もっといい形で添い寝をしたかったけど、しょうがない。彼を洗脳して、私を好きになってもらうようになるしかない。
「……でも。」
「『でも。』って何よ? 私の横じゃ嫌なわけ? 私はあなたがそんなところで寝られて、風邪でも引かれると困るからこうして親切心で誘ってるのよ? その親切を無下にするつもり? そうやって、女の子に恥を掻かせて生きてきたの?」
彼は「うーん。」と唸ったが、観念したのか、立ち上がって、近づき、私のベッドの中に入ってきた。
微かにタバコの匂いがした。そうだ。彼はタバコを吸っていたんだ。でも、こうやって縛られている以上は、吸えない。タバコを吸えないつらさは私にはわからないけど、やめたくてもやめられないものだってことは知っている。
「あなた、タバコはいいの?」
「どうしてそれを?」
「服に匂いが染みついてるし、それに……。」私は彼のズボンのポケットに手を当てた。
「この膨らみ、タバコじゃないの?」