鎖骨を噛む
13 桜の木の下で
目を覚ますと、横で健司が握りこぶしを作って、背中を丸めて寝ていた。なんとも可愛い寝顔を見て、一瞬慌てたけど、昨晩のことが走馬灯のように蘇ってきて、ああ、そうだ。私には健司がいるんだってことを再確認した。
夢じゃない。夢と現実の境目が曖昧になっているだけかもしれない。それならそうでいい。素敵な夢で、この夢が一生覚めなければいいと思う。これが現実世界で起こっていることだったら、私は世界一幸せ者じゃないかと思う。世界一の幸せ者の定義は、独りじゃないことにあると思う。そして、好きな人のためにいろいろ考えて、生きていくことじゃないかと思う。そこには、愛と死とがあって、どんな物語も切り詰めていけば、きっと愛か死になる。
ベッドから起き上がって、シャワーを浴び、それから着替えて歯を磨き、メイクをした。健司はまだベッドで時々、寝返りを打ちながら寝ている。私はそんな健司のために、朝ご飯を作ることにした。
冷蔵庫を開けてみる。見事に何もない。でも唯一、卵があった。目玉焼きは決定。あとは、目玉焼きに何を合わせるか。主食。常識では多分、パンがいいはず。でも、トースターがなければ、パンもない。
敢えてご飯にしようか……でも、目玉焼きとご飯って合うのかな? あ、でもご飯に醤油をかけると美味しい。目玉焼きに醤油をかけるのも美味しい。だったら、ご飯の上に目玉焼きを乗せて、黄身を割りながらその上に醤油を垂らすのも美味しいんじゃないか? 我ながらナイスアイデア!