世子様に見初められて~十年越しの恋慕
絹の寝衣は滑りが良く、ダヨンはヘスの目の前に手繰り寄せられた。
「心の準備は出来ているか?」
「………何度経験しても、こればかりは………」
ダヨンは恥じらいながら視線を逸らした。
「だが、皆の期待に応えねばなるまい」
「それは分かってはいるのですが、…………痛いのはどうにもこうにも苦手でして………」
「フフッ」
「あっ、お笑いになりましたね?」
「大したことではないのに、毎回自害するかのような表情だからな」
「それはっ………、仕方ないではありませんか。生きていれば、苦手なものが一つや二つあるものです!世子様だって………」
「何だ、私の弱みを知っているからか?」
「っ………、何でもありませんっ」
「フッ、そなたが約束を破らぬ限り、私も決して破ったりはせぬ」
「…………はい」
ヘスの言動で百面相のように表情を変えるダヨンだが、交わされた約束は今も有効だと分かり、安堵の溜息を漏らした。
「では、そろそろ良いか?」
柔和な表情を見せていたヘスだが、口角を持ち上げ、更にダヨンの腕を引き寄せた。
とうとうお互いの膝頭がぶつかってしまった。
「っ………」
しかも、ヘスはもう片方の腕をダヨンの腰に回し、これでもかというくらいに抱き寄せる。
ヘスの吐息がダヨンの頬にかかるほど、これ以上二人の間に詰める間は無い。
ヘスはダヨンを抱き寄せたまま、ダヨンの背後にある蝋燭の炎を吹き消した。
それが合図かのように、衣擦れの音とダヨンの息遣いが室内に響き始めた。
「今宵は、この辺はどうだ?」
「へ?そ、そのような場所にですか?!」
「未知なる場所の方が、そなたの反応が良さそうだ」
「なっ!」
にやりと意地悪い笑みを浮かべたヘスは逃げ腰のダヨンの足を掴み、容赦なくソッチマ(下着)の裾を捲った。
「や、優しくお願い致します、………世子様」
「優しくと言われてもな。こういうことは、一思いにいった方がいいのだぞ?」
「えっ?」
「参るぞ」
「えっ、あ、…………ん~っ、……………ああああああぁ~あああああっ!」
月に照らされた資善堂にダヨンの声が響き渡った。