世子様に見初められて~十年越しの恋慕
世子様の事となると、完全に我を忘れてしまうソウォン。
またもや危ない事に首を突っ込まれてるのだと、チョンアは瞬時に悟った。
だが、注意したところで簡単に諦めるような性格ではない為、チョンアはどうしていいものか、悩みあぐねる。
「ねぇ、チョンア。父上は今日、弘文館へ?」
「はい、お嬢様。巳時(サシ:午前九時から十一時)の刻頃にお出掛けになられました」
「そう。では、今のうちに……」
スッと腰を上げたソウォン。
チョゴリの袖を捲り上げ、見るからにやる気満々のようだ。
「お止めしても、探されるのですよね?」
「勿論!!」
「はぁ……」
チョンアが盛大な溜息を零しても、ソウォンは全く気にする様子はない。
「嫌なら付いて来なくていいわよ?私一人で探すから」
「いいえ!行きますともっ!!旦那様のお部屋がお化け屋敷と化したら、それこそ大問題ですから!」
「そんな大袈裟な」
鼻で笑うソウォンを横目に、チョンアはソウォン以上に気合いを入れた。
ソウォンの父親は普段は温厚だが、躾はかなり厳しく、主不在の居室に無断で入ったとなれば、お咎めに遭うのは必至。
罰を受けるにしても、出来るだけ最小限に留めたいと思うチョンアであった。
「さぁ、参りましょう!旦那様が戻る前に、その文字のようなものが書かれている書物を見つけないとなりませんから」
「そうね」
二人は顔を見合わせ、部屋を後にした。
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「本当に見たのですか?あの文字のようなものを……」
チョンアは肩を回し、疲労が溜まる体を解す。
既に未時(ミシ:午後一時から午後三時)の刻を過ぎ、使用人たちが夕食の支度を始めたようだ。
何処からともなく、香ばしい香りが漂って来ている。
「そろそろ部屋に戻りませんと、奥様に見つかりますよ?」
「分かってるわ」
ソウォンの父親が帰宅する前に、ソウォンの母親は着替えの支度にこの部屋に来るのである。
ソウォンが目を通した書物を元あった場所へと戻していると。